vanimasa's blog

どこかの技術者の備忘録的な

Learn or Die を読んだ

タイトルの通り,「Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦」という本を読んだ。以下,Amazonのリンクを貼っておく。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4046040491

自分は以前から機械学習,深層学習に興味があったためPreferred Networks (PFN) の存在は知っていて,Chainerにも少しお世話になった。そんな中,PFNの創業者であるお二方の執筆された本が出版されたとの記事を見て気になっていた。コロナウイルス感染症による大学の閉鎖もあり,家でやれることも少なくなってきたので先日この本を購入した。何もアウトプットしないで読むのも勿体ないと感じたので,備忘録として面白いと感じた部分のメモや自分の感想を書いておく。以下ネタバレ?等注意。

 

パーソナルロボットへの着目

この本の始めのほうではPFNが行ってきた事業がその思想と共に語られていた。その中で,PFNが次に注目する話としてパーソナルロボットの話が登場した。本の中ではパーソナルコンピュータ (PC) の普及と絡めて話がなされた。PCが広く世の中に浸透した理由の一つとしてデバイスの抽象化を仮説として挙げていた。OSによって異なるハードウェア上でも同じプログラムを実行することを可能にしたことによりソフトウェア開発者のモチベーションも上がったのではないかというものである。

ロボットの場合これに対応するのが「環境の抽象化」ではないかという主張がされていた。ロボットは実世界の計測を基に動作を行い,周囲環境とのインタラクションを起こす。周囲環境に応じてできることも異なってくる。様々な環境に適応することができればパーソナルロボットを様々な場面で導入することが可能になる。その環境の多様性に対応する技術として深層学習を挙げていた。*1 これについてPFNが開発した技術としてCEATEC 2018に出展したお片付けロボットが挙げられていた。 

https://www.youtube.com/watch?v=VGj3daiFNdM

 トヨタのHSRを使って物体認識とその片付けをしている。デモとしては未来を感じる部分もあるが,果たしてこの先どうなるか気になるところである。

 

「面白いことをやらないなら生きている意味がない」

この小見出しは本の小見出しから引用したものである。PFNが深層学習関連の事業に挑戦し始めた時,世間ではまだ第三次人工知能ブームが訪れていなかったので,リスクを背負った挑戦だったようである。そんな中で深層学習へと事業をシフトした流れが書かれていた。この中で心に響いたのは「自分が『面白い』と思えることに,もっと敏感になるべきだと考えた。人生は有限だ。『面白い』と思えることにフォーカスしないと,最大の成果は出せない。」という記述であった。自分も将来面白いと感じることのできる仕事に就いていろいろな挑戦をしてみたいとは常々思っている。現在大学院生である自分はとりあえず研究を通して道を探っていく中で面白いと思うことにたくさん出会いたいと思う。

 

PFNの4つの行動規範

本の中で,PFNの4つの行動規範について説明があった。社員が増えてきて改めて明確に示そうということで社員全員の議論の下で決められたようだ。その4つの行動規範というのは

  • Motivation-Driven
  • Learn or DIe
  • Proud, but Humble
  • Boldly do what no one has done before

の4つである。本書を読む中で何回も感じるのが,面白くないことや将来の可能性がないことにはまず挑戦したくないという創業者2人の強い意志であった。こうした考えがこの行動規範に現れているのだろうと感じた。

 

組織開発

組織の力という部分にも多く触れられていた。会社を立ち上げた理由の一つとして一人では絶対にできないことをやろうというのが度々話題に挙がっていた。とにかく「技術力」に対してストイックである印象を強く受けた。スタートアップ故に圧倒的な技術で差別化をしないと生き残れないというのも何度も書かれていた。

こうした技術を追求するために様々な取り組みを行っているようである。まずは失敗を「推奨」する点である。PFNでは「できそうな事」は絶対にやらない。失敗するかもしれないが,解けるかもしれない問題に挑戦する。こうした挑戦には必ず失敗がついてくるが,PFNではこれを咎めるようなことはせずむしろ推奨している。これは資本を提供しているファナックトヨタといった企業が失敗の重要性を理解してくれている面も大きいようである。個人的にこの点は非常にうらやましい環境である。大学院での学位取得のためには「激しい失敗」が出来ないのが悲しいところ。また,大学で競争的資金を基に研究をすると,数年で「結果」を出さないといけない。人もお金も量が全然違うので一概には比較できないが非常にうらやましい環境である。なお,本の中では「外部と交流しない大学研究室からは新しいことは生まれない」とまで言われている。自分も外とのつながりは意識してみようと思った。

 

まとめ

PFNがどういった点に着目して,どのような思考で研究開発をしているかを学ぶことができて面白い本であった。とことん技術力にこだわって未来を創ろうとしているPFNの心意気を感じることができた。お互い高めあえるコミュニティに属してみたい欲がとても上がった。*2

*1:個人的には深層学習だけでなく,ロボットのモーションコントロールなどの低レイヤの制御技術にも触れてほしいと思っている。特に繊細な力制御をしたい場合は適当にやっても難しいはず。

*2:そのためには自分の技術力,知識も高めないといけないとつくづく感じる。